氷雪に沈む三つの愛、絶望の白銀陣

猛吹雪が、視界を無慈悲な白一色へと塗りつぶしていく。
吹き荒れる風は刃のように鋭く、愛天使たちの温かな絆を断ち切るかのように、どこまでも冷酷に雪原を支配していた。

「ももこ！ ひなぎく！ どこなの……お返事をして！」

エンジェルリリィは、轟音を立てて渦巻く白銀の闇の中を、ただ一人彷徨っていた。
雪之丞の罠によって完全に分断されてしまった愛天使たち。リリィの深い緑色の瞳は、視界を遮る吹雪を必死に透かそうとするが、親友たちの姿はおろか、その気配すら一切感じ取ることはできない。警戒を怠らず、雪を掻き分けて歩みを進める。ステップを踏むたびに左足首に輝くアンクレットが微かな音を立て、右太ももを飾るリングが底冷えする雪風に晒されている。本来であれば優雅に戦場を舞う彼女の洗練された姿も、今は極限の寒さと孤独、そして親友の安否を気遣う焦燥感によって、次第に本来の精彩を欠きつつあった。

（このまま探し回っていても、体力を消耗するだけだわ。でも、ももこもひなぎくも、きっとどこかで私を……！）

「お探しの仲間なら、ここにおるでおじゃるよ」

地鳴りのような響きと共に、リリィの行く手を阻むように猛吹雪が真っ二つに割れた。
雪の壁の中から悠然と姿を現したのは、元の姿に戻った悪魔・雪之丞だった。その傍らには、無機質な眼光を放ち巨大な掃除機のノズルを構えるソージ鬼と、楽しげに宙を舞いながら背中のリュックサックを揺らすりゅっくが控えている。三体の悪魔が、最初から彼女一人を狙い澄ましていたかのように、静かに包囲網を敷いていた。

「雪之丞……！ ピーチとデイジーをどこへやったの！」
リリィは咄嗟にセント・リプライナーを構え、緑色の瞳を鋭く細めて敵を睨みつける。

「そんなに会いたいなら、まずはお一人、特別にお見せして差し上げるでおじゃるよ。貴女の希望の、無様な末路をな」

雪之丞が悪辣な笑みを浮かべて扇子を翻すと、猛吹雪が巨大な渦となり、彼の背後から一つの巨大な氷の塊をせり上げさせた。
「あっ……！」
リリィの喉から、声にならない悲鳴が漏れた。
吹雪の中に浮かび上がったのは、透明で分厚い巨大な氷の十字架。そしてその中心に囚われているのは、他でもないウェディングピーチであった。

「ピーチ！！ 嘘……そんな……ももこ！」

氷漬けにされたピーチは、変身を解除することなく愛天使の姿を保っていたが、その痛々しい有様は一目で凄惨な敗北を喫したことを物語っていた。可憐な肩パッドや胸当てには蜘蛛の巣のような深い亀裂が走り、愛の象徴である胸元中央の紫色の宝石は無残にも砕け散り欠け落ちている。一切の愛のウェーブを奪い尽くされ、人形のように目を閉じたまま氷に縫い留められている親友の姿は、一人取り残されたリリィにとってあまりにも残酷な光景だった。

「ピーチの愛のウェーブは、麿たちが三人がかりで最後の一滴まで美味しくいただいたでおじゃる。元の姿に戻る力すら残っていない、ただの虚ろな抜け殻でおじゃるよ」
「よくも……よくもピーチをこんな目に……！」

親友の惨状を前に、リリィの心にかつてないほどの怒りと悲しみが沸き上がる。しかし、感情を乱したその瞬間こそが、悪魔たちの真の狙いだった。

「隙ありだわ、ぺたんシール！」

頭上からりゅっくが嘲笑と共に、一枚のシールを軽快に投げ下ろす。赤地に白抜きで「止まれ」と描かれた標識シールが、風に乗ってリリィの額へと吸い込まれるようにピタリと張り付いた。
「えっ……！？」
瞬間、リリィの身体が強制的に固定される。セント・リプライナーを構えたままの優雅なポーズで、肉体が完全に凍りついたように動かなくなった。
「動けない……っ！ そんな、卑怯よ！」

「卑怯とは誉め言葉でおじゃるな。さあ、ソージ鬼、りゅっく。極上の愛のウェーブ、二杯目といくでおじゃるよ」

雪之丞は絶望に顔を歪めるリリィの目の前へとゆっくりと歩み寄り、再びその身をドロドロと溶かして再構築した。現れたのは、氷漬けにされているはずのウェディングピーチの姿だった。

「も、ももこ……？ やめて、その姿で私を見ないで……！」
リリィは哀願するように叫ぶが、偽ピーチは底意地の悪い冷笑を向けてくる。
「リリィ、どうして私を助けてくれなかったの？ さあ、私と同じ痛みを味わって、一緒に壊れてちょうだい」

偽ピーチの合図と共に、三方向からの無慈悲な搾取が始まった。
ソージ鬼がノズルをリリィの正面に向け、凄まじい力で彼女の清らかな愛のエネルギーを真空パックのように引き剥がしていく。りゅっくは背後からリュックサックを大きく開き、黒い電撃を伴う強烈な吸引渦を発生させ、リリィの神経を直接焼き焦がしながら波動を逆流させた。

「あぁぁっ……！ 嫌っ……ももこ、やめてぇっ！」

偽ピーチはリリィの悲鳴を心地よさそうに聞き流しながら、彼女の胸元で輝く愛の宝石に直接指を突き立てた。冷酷な指先がエネルギーの核に触れるたび、リリィの全身に耐え難い激痛が走る。
偽ピーチが宝石を乱暴に抉ると、リリィの装甲にも限界が訪れる。肩パッドにピシリとひびが入り、胸当てには深い亀裂が走った。左足首のアンクレットと右太もものリングも、持ち主の生命力の低下に呼応するように輝きを完全に失い、ただの冷たい金属の輪へと成り果てる。

「壊れなさい、リリィ！」
偽ピーチの宣告と共に三体の悪魔が吸引力を最大に引き上げる。リリィの全身から光が爆発的に散り、視界が真っ白になるほどの激痛が彼女を呑み込んだ。
「ああぁぁぁぁぁぁっ！！」
魂が砕け散るような悲鳴を最後に、胸元中央の紫の宝石が砕け、すべての愛のウェーブが吸い尽くされた。額のシールが剥がれ落ち、変身を維持したまま、無残な亀裂だらけの装甲を纏ったリリィの身体が雪原へと崩れ落ちる。

雪之丞は元の姿に戻り、意識を失ったリリィを透明な氷の十字架へと封じ込めた。ピーチと並ぶように両腕を広げた痛々しいポーズで磔にされた二つの氷のモニュメント。

「これで残るは、エンジェルデイジーただ一人でおじゃるな」

＊＊＊

「はぁっ……はぁっ……ももこ！ ゆり！ どこにいるんだよ！」

エンジェルデイジーは、吹き荒れる猛吹雪を強引に掻き分けながら、必死に二人の名前を呼んでいた。彼女の勝気な瞳には疲労の色が濃く滲んでいるが、仲間を助け出すという強い意志の炎だけは決して消えてはいなかった。

「この異常な吹雪……絶対に悪魔の仕業だ。早く二人を見つけて、合流しないと……！」
デイジーが雪原の丘を越えたその時、不自然に視界が開けた空間に、異様な物体が二つ並んでそびえ立っているのを発見した。

「あれは……氷の柱……？ いや、十字架……！？」

駆け寄ったデイジーの足が、凍りついたように止まった。
分厚い氷の十字架の中心に囚われていたのは、待ち望んでいた親友たちの姿だった。しかし、その有様はデイジーの想像を絶するほど凄惨なものだった。
ピーチとリリィ。二人は変身を解除できず、愛天使の姿のまま磔にされている。その肩パッドや胸当てには無数の亀裂が走り、胸元中央の宝石は砕け散り、すべての愛の波動を奪い尽くされた死人のような青白い顔をして、ピクリとも動かない。

「ももこ……ゆり……！ 嘘だろ、こんなの……！」
あまりの光景に、デイジーの両膝が震える。武器を握る手から力が抜けそうになったその背後から、雅で残酷な声が響いた。

「ようやく揃ったでおじゃるな、最後の愛天使」

振り返ると、雪之丞、ソージ鬼、りゅっくの三体が、デイジーを完全に包囲していた。
「雪之丞！ てめえ……よくも二人をこんな目に！」
デイジーの怒りが頂点に達し、セント・トルナードを構えようとした瞬間。

「お前も動けなくしてやるわ、ぺたんシール！」
りゅっくが頭上から一枚の「止まれ」の標識シールを投げつけた。シールは正確にデイジーの額へと貼り付き、彼女の身体を一切の抵抗を許さないまま完全に固定した。

「くそっ……！ 動け……動けよっ！」
「無駄な足掻きでおじゃる。さて、麿は非常に気分が良い。特別に、素晴らしい余興をお見せしようではないか」

雪之丞が扇子を優雅に振るうと、ピーチとリリィを閉じ込めていた氷の十字架の表面が、わずかに溶け始めた。極寒の風が二人の傷ついた肌に直接触れる。
その刺激と、かすかに残っていた愛の生命力によって、ピーチとリリィの瞳がわずかに見開かれた。

「ももこ！ ゆり！ 気がついたのか！」
デイジーが声の限りに叫ぶ。ピーチとリリィは虚ろな瞳を彷徨わせ、やがて目の前で身動きを封じられているデイジーの姿を捉えた。

「ひな……ぎく……」
「逃げ……て……お願い……」

ひび割れた装甲の下で、虫の息のような声でデイジーを気遣う二人。その姿を見た雪之丞は、悦楽に満ちた高笑いを上げた。

「素晴らしい！ 己が空っぽになってもなお、友を想う愛の心が僅かに湧き上がるとは！ 尽きせぬ愛の泉、これぞ極上のデザートでおじゃる！」
「やめろ……！ 何をする気だ！」
「決まっているであろう？ 貴女の目の前で、その健気な愛の雫を、もう一度残らず啜ってやるのでおじゃる！」

雪之丞の非情な号令と共に、ソージ鬼とりゅっくが動いた。
ソージ鬼は巨大なノズルをピーチに向け、りゅっくはリュックサックを開いて黒い電撃の吸引渦をリリィへと放つ。雪之丞自身は二人の間に立ち、両手をそれぞれの砕けた胸元の宝石へと突き立てた。

「あぁぁぁぁぁっ！！」
「いやぁぁぁぁぁっ！！」

雪原に、二度目の、そして先程よりもさらに悲惨な悲鳴が響き渡る。
わずかに意識を取り戻し、友を想って生み出された僅かな愛のウェーブが、再び悪魔によって容赦なく吸い上げられていく。
物理的なノズルで抉り取るように吸引するソージ鬼。黒い電撃で神経を焼きながら渦で吸い上げるりゅっく。二重の苦痛に、ピーチとリリィの身体が激しく痙攣する。
ピシリ、ピシリと、すでに亀裂だらけだった二人の肩パッドや胸当てから、さらなる装甲の崩壊音が響く。

「やめろぉぉっ！！ ももこ！ ゆり！！」
デイジーは涙を流しながら絶叫する。自身の無力さ、親友たちが目の前で再び拷問にかけられ、力を奪われていく光景。その精神的苦痛は、肉体的なダメージを遥かに凌駕し、デイジーの心をボロボロに破壊していった。

「ふははは！ 見ろ、この美しい絶望の顔を！ さあ、次は貴女の番でおじゃる！」

ピーチとリリィが完全に事切れたように項垂れると、三体の悪魔は標的をデイジーへと変えた。
雪之丞は姿をドロドロと変え、今度はエンジェルリリィの姿へと変身した。
「デイジー……助けてくれなかったのね……あなたも、一緒に苦しんで……！」
偽リリィが冷酷な笑みを浮かべながら、デイジーの胸元に指を突き立てる。

「あぁっ……！」
ソージ鬼の強力なノズルが正面からデイジーの愛のウェーブを根こそぎ吸い上げ、りゅっくの黒い電撃と吸引渦が背後から彼女の体力を奪い去る。
目の前で親友が二度も蹂躙される姿を見せつけられ、完全に心が折れていたデイジーには、抗う気力など一欠片も残されてはいなかった。

「あぁぁぁぁぁぁっ！！」

偽リリィが胸元の緑の宝石を強引に抉る。デイジーの肩パッドにひびが入り、胸当てに致命的な亀裂が走る。愛の象徴である宝石が砕け散り、彼女の体内から溢れ出た光が、三体の悪魔へと完全に吸い尽くされた。
額のシールが剥がれ落ち、変身を解除できないまま、亀裂だらけの無残な装甲に身を包んだデイジーが雪の上に崩れ落ちた。

「これで、すべての愛天使を平らげたでおじゃる」

元の姿に戻った雪之丞は、デイジーの身体を三つ目の氷の十字架へと封じ込めた。
猛吹雪が吹き荒れる広大な白銀の雪原。そこには、変身した姿のまま亀裂だらけの痛々しい姿で磔にされた、三つの氷の十字架だけが並んでそびえ立っていた。すべての愛を奪われ、絶望の表情のまま氷に閉ざされた愛天使たち。完全なる敗北の静寂が、凍てつく世界を支配していた。